やめて欲しい社員
経営者なら、正直にいえば、このままなら辞めてくれた方がいいという社員がいるかもしれません。
もちろん、できる限り指導し、会社に貢献してくれるように手を尽くすとは思います。それでも、なかなかそううまくもいかず、本音をいえば、この社員は辞めて欲しいと考えてしまうことがあるでしょう。
そして、時には、本当にそれを実行に移してしまうこともあります。
かつて、私が所属していた会社のことです。
年齢は、50歳代で、役員以外では、もっとも社歴の長い社員でした。ただ、残念ながら、ちょうどそのころは、あまり成果をあげられていませんでした。社歴が長く、年齢も上の方なので、給料は結構高かったと思います。でも、それに見合った仕事ができていなかったのです。
本人は、成果をあげようと努力をしていたのだと思います。でも、周囲の人間からは、「いつも暇そうにしていて楽でいいな」とか、早めに帰宅する姿を見て、「早く帰れていいな」とか、そんなことを思われていたりもしました。
成果をあげるための必死さが感じられなかったのです。
当然、社長からは、かなり叱責されていたようです。一人、社長室に呼ばれて、怒鳴られていました。内容は分かりませんが、とにかく、相当厳しいことをいわれていることは間違いありません。
しばらくして、社長室から出てきたその社員の顔を見ると、やはり引きつった表情をしています。相当厳しいことをいわれたなと、誰が見ても分かります。
そんなことが、しばらく続きました。そして、ある時その社員は退職しました。
社内では自主的に退職したということになっています。
でも、社員はみんな知っています。
社長が退職に追い込んだのです。
会社全体の業績もあまり良くない状況でしたし、稼げない高給取りは不要ということでしょう。短期的に見れば、それは、経営者として正しい選択だったのかもしれません。
でも、私は、それを見て思いました。
こうやって、捨てられるんだな。自分は、捨てられる前に辞めよう。。。
もちろん、そんなことにならないよう、成果をあげ続けようとも思いました。でも、誰でもうまくいくときもあれば、うまくいかないときもあります。退職させられた社員も、よく話を聞けば、それまでには、多大な貢献をしてきているのです。そのときは、たまたまスランプだったのかもしれないのです。
でも、スランプに対するフォロー、サポートは皆無で、ただただ、厳しく叱責されているだけでした。一人前なんだから、いちいちサポートしなくてもいいという考え方もあるでしょう。でも、不調の時には、何らかのサポートは必要だとも思います。特にメンタル面では。
そういう意味では、社長はただ叱責するだけで、メンタル面のフォローは一切なし。というか、むしろ、どんどん、どんどん追い込んでいくだけでした。見ている私も、辛くなるほどでした。
そして、社長の目論見通り、その社員は退職しました(させられました)。
社長は、資金面での負担が軽くなって、ホッとしていたと思います。でも、将来を担う可能性のある若手に対して、警戒心を植え付けることにもなっていたのです。
会社との距離、溝を作り出していたのです。
少なくとも、私は、この会社に身を捧げられないと思いました。
何をいいたいのかといえば、どんなにやる気のない、どうしようもない社員だとしても、その人にひどい仕打ちをしてしまうと、他の社員が見ていて、自分も同じ目に遭うと考えるということです。そして、優秀な、やめて欲しくない社員が辞めてしまうことにもなるのです。
また、感情的な、ひどい仕打ちそのものに不快感を持つ社員もいます。
結果として、組織全体がバラバラにになり、崩壊していくことになりかねません。
現実的に、その社員が辞めさせられてから、次々に社員が退職しました。
しかも、有望な、期待されていた社員です。
連鎖反応が起こってしまったのです。
感情的な行為は、見苦しいものです。相手によって対応が変わるとしても、そのような一面を見てしまえば、明日は我が身と思ってしまいます。
厳しい対応も時には必要です。でも、相手の人格を否定したり、相手を傷つけるようなことは、絶対にしてはいけないことです。
人道的にとか、道徳的にとか、そういう理由からではありません。
本当は失いたくない、優秀な社員に悪い影響を与えるからです。
優秀な社員は、ある時、さっといなくなります。
退職届が出てから気づいても、もうどうしようもありません。
どんな社員に対しても、節度を持った対応をとる必要があるということです。
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