社長としてのモデルチェンジとバージョンアップ

学校を卒業して、どこかの会社に入社すると、何の役職もない平社員になります。最初は、すべてが新しく、何もかも初体験で、緊張しっぱなし。よくいえば刺激的、悪くいえば落ち着くことができず、疲れる毎日です。

ところがしばらくすると、担当業務に慣れ、一通りのことはできるようになり、新しいことに出会う刺激も少なくなってきます。余裕で仕事をこなせるようになり、特定の業務なら完全に任せられるようになってきます。仕事ができるようになって自信が出てくると同時に、マンネリ化も始まります。

そんな状態になると、上司から言われます。

「君ももう新入社員じゃないし、後輩も増えてきた。自分のことだけじゃなく、リーダーとしてチームの面倒を見てもらわないとな」

一人のプレーヤーから、チームリーダーに格上げです。

最初は、プレーヤーとしての業務とリーダーとしての役割の違いに戸惑います。自分でやってしまった方が早いけど、後輩を指導して、後輩にやらせるようにしなければなりません。自分もプレーヤーではあるものの、後輩の指導も同時に行わなければならないのです。

ところが、この役割の転換は、スムーズには進みません。これまでやってきたこととは違うことをやるので、慣れるまでうまくいかないのです。最初はぎこちなく、あまりリーダーらしくありません。リーダーとしては頼りないことでしょう。ところが、気がつくと、いつの間にか立派なリーダーになっています。

社員の場合、こういうことが何度かあって、徐々に成長していきます。リーダーから係長、係長から課長、課長から部長、部長から事業部長・・・などという具合です。

広い範囲を任せられるようになるにつれて、役割が少しずつ変わっていきます。自分の部下が第一線の担当者である場合と、自分のすぐ下の部下が課長の場合では、やるべきことが違います。ですので、役職が上がるごとに、役割の変化に戸惑い、試行錯誤し、新しい役割に対応していくことになります。

役職が上がり、役割が変わるたびに、新たな役割に挑戦し、対応するために試行錯誤し、初めてのことに緊張しながら、少しずつ新しい役割に対応していきます。そして気がつくと、立派な○○長になっているわけです。

で、このようなことは、社長にも当てはまります。

つまり、会社の状況が変われば、社長の役割も少しずつ変化していき、それにうまく対応していく必要があるということです。

ところが、社長は、いつも社長です。社員が10人でも社長、100人になっても社長、500人になっても社長です。

そのため、役割の変化に対応できていない場合があるのです。

社員の場合は、肩書きが変わり、明らかに求められる役割が変わります。その新しい役割に対応するため、イヤでも自分を変えていかなければなりません。上司からの指導もあるので、イヤでも変わっていきます。もちろん、新しい役割に対応しきれない人もいますが。

一方、社長は、どこまで行っても社長です。肩書きは、常に社長です。

でも、社員が10人の時の社長と、500人の時の社長では、役割が違います。

もっとも、正確に言うと、トップとしての役割そのものは、あまり変化しません。たとえば、会社の方向性を示すとか、経営上の意思決定をするとか、そういうトップならではの役割は、会社の規模に関係なく、常にトップの役割です。

一方、会社の規模によって、あるいは、人員体制によって、実際に社長が果たしている役割は違ってきます。つまり、トップ以外の役割を社長が担う場合があり、その度合いによって役割が違ってくるのです。たとえば、本来なら営業課長がやるべき役割なのだが、社員10人の会社で、営業部には課長と呼べるような人材はおらず、営業出身の社長が、営業課長の役割を兼務するというような場合です。

肩書きには、○○兼務とはつかないのですが、現実的には、その役割もやらざるを得なくなっている場合です。

このようなことは、規模が小さな会社では当たり前のことです。社長に限らず、他の立場の人間も、いろいろな役割を兼務します。会社として必要な機能は、大きな会社も小さな会社もそれほど違わないので、人数が少ない場合は、一人の人間がいくつもの機能を担うことになるのは当然のことなのです。

理想的なことをいえば、社長は、社長ならではの仕事に専念するべきです。営業課長、製造課長などの役割はもちろんのこと、営業部長、製造部長、管理部長、工場長などの役割も、任せられる社員に任せるべきです。ちょっと頼りないと思っても、それなりにやれそうなら、任せて見て、育てていくという姿勢が必要です。そうやって、社長は社長の仕事に専念できるようにしていくわけです。

ところが、現実的には、こうならないことも多いようです。

その理由の一つは、社長は常に社長だということ。

先ほども書きましたが、社員数が増えても、売上が増えても、店舗の数が増えても、社長は社長。組織図でいえば、社長の下はドンドン変化していくのですが、社長は常に社長。トップであることに変わりはありません。そうすると、自分自身の役割を変化させる必要性を感じにくくなるのです。人間は、あまり変化したくない生き物なので、何となく今まで通りのやり方を踏襲してしまい、気がつけば、社長がいろいろな役割を兼務したままになってしまうのです。

ですから、社長は、常に自分の役割を見直すとともに、任せられる社員を育て、社長以外の仕事は社員に任せるように努める必要があります。

ところが、現実的には、なかなかうまくいかないようです。

社員が育たないから任せられないということもあるでしょうが、これは、裏返すと社長自身が任せ方を分かっていない、あるいは、社員を育てられないともいえます。

人に任せたり、育てたりするためには、我慢と忍耐が必要です。つい口を出したくなるが、黙って見守るということも時には必要です。あえて失敗させるということも、場合によっては必要でしょう。答えを教えずに、社員に考えさせ、あえて悩ませることも重要です。

ところが、早く結果を出したいという気持ちが強いと、ドンドン口を出し、正解を教えて、細かく具体的に指示を出して業務を完了させてしまいます。結果が出るという点では、それはそれでいいのですが、人材育成の観点からは、良くない場合もあります。特に、会社の幹部を任せるような、リーダーシップを発揮できる人間を育てようという場合には、これではいけません。

我慢してあえて言わないことも大切なのです。

特に、自分の得意分野については、要注意です。

得意分野なので、どうしても口を出したくなります。でも、口を出さない方がいいこともあるのです。

規模が大きくなってくると、そういうことがドンドン増えていきます。

店舗の接客に課題があると思ったら、自分が店長なら直接指導すればいいことです。でも、社長なら、店長に指導させなければいけません。もし、店舗を統括するエリア・マネジャーがいるのなら、エリア・マネジャーを通して店長に指導させ、店舗での接客を改善しなければなりません。

まどろっこしいですね。

でも、それが組織です。これをやらないと、組織全体が育っていきません。

もちろん、社長が直接指導しなければならないこともあるでしょう。でも、基本はその役割を担う役職者に任せなければなりません。

長くなってきたので、簡単にまとめると、社長は、会社の規模、人員体制、そのときの状況に応じて、自分が果たす役割は何かを見極め、柔軟に変化していく必要があるということです。

課長が部長に昇進するのとは違って、明確なきっかけはありません。自分の目で状況を見極めて、適切な対応をしていかなければならないのです。

企業が変わるかどうかというのは、社長が変われるかどうかにかかっています。

企業変革が成功するかどうかの鍵は、社長自身ということです。

会社を成長させるためにも、社長自身が変化し、成長していく必要があるということです。

よく、企業は社長の器以上には大きくならないといいます。

社長は、常に自分自身を磨き続け、成長しなければならないのです。

社長も大変だぁ。。。